弥栄-いやさかの会

価値観の逆転『すずめの戸締まり』は天岩戸を閉める物語でした

価値観の逆転『すずめの戸締まり』は天岩戸を閉める物語でした

後ろ戸

『すずめの戸締まり』は新海誠監督によって制作され、2022年に公開されたアニメーション映画です。

この作品に込められたメッセージを読み解いた時に、日本神話の中に描かれている天岩戸開きというのは、果たして本当にポジティブな物語だったのだろうか?と改めて考えさせられてしまいました。

『すずめの戸締まり』の主人公は、幼い頃に東日本大震災によって母親を亡くし、宮崎県に住む叔母の家に引き取られた岩戸鈴芽(いわと すずめ)という名前の17歳の少女です。
そして、この物語のカギとなっているのが「要石」(かなめいし)と「後ろ戸」です。

「要石」は鹿島神宮や香取神宮などで実際に存在し、大部分が地中に埋まった状態で地震を鎮めているとされているものです。
「後ろ戸」は日本神話の中に出てくる天岩戸のことであり、「すずめ」は天岩戸を開いた女神・アメノウズメがモデルであることが新海監督によって公表されています。
そして、「後ろ戸」は時間と空間を超えた常世に繋がる扉として描かれています。

この物語は、すずめが後ろ戸のそばにあった要石を引き抜いてしまったことによって、要石の化身であるダイジンという猫が解き放たれ、同時に後ろ戸が開いてミミズという大地震を引き起こすエネルギー体が暴れ出てしまうというところから大きく動いていきます。

もうひとりの主人公は、閉じ師の宗像草太(むなかた そうた)です。
ダイジンの魔術によって、草太はすずめが幼い頃に使っていた椅子に姿を変えられてしまいます。
すずめと草太は逃げるダイジンを追いかけて宮崎から愛媛、神戸、東京を経由して、東日本大震災後のすずめの故郷まで旅をすることになります。

そして、物語の最後に明らかになることは、ダイジンには、すずめにとってだいじな場所、すなわち、すずめが戸締まりをしなければいけなかった場所まで道案内する役目があったということでした。
それによって、すずめはこれまで黒塗りしていた過去の自分と向き合い、震災時の悲しい記憶を昇華することが出来たのです。

すずめと出会った人たちも、自分の中に閉じ込めてきた感情を開放し、心の戸締りをしていくという鎮魂の物語になっています。


ここまでが、ストーリーの大まかな流れです。

以下では、新海監督がこの作品に込めた裏のメッセージを解説していきます。
一言でいえば、私たち人類が自分自身の歪んだ心の戸締りをしていくのと同時に、これまでの歪んだ社会の戸締まりをしていくことへの願いを込めた作品だったということになります。

宗像草太

草太は、自分が要石になることを覚悟して生きていた人物です。
これは草太のセリフです。

「地図の変化は日本人の宇宙観の変化だ。人の認識が変われば土地の形も変わり、龍脈や災害の形も変わっていく」
「人を脅かす災害や疫病は、後ろ戸を通って、常世から現世にもたらされるんだ」

人間の歪んだ集合意識が土地に溜まって後ろ戸を出現させ、ミミズを暴れさせるのです。

草太が唱える祝詞の中に「(神々から)拝領つかまったこの山河 かしこみかしこみ 謹んでお返し申す」というフレーズがあります。
「拝領」とは自分の所有物とすることであり、「拝借」とは全く違う意味になります。

これまで私はこのブログの中で、空気と同じように土地は誰の物でもないと主張してきました。
人類の歴史の中で、八百万の神から無償で貸与されている土地を人間が勝手に個人や国家の所有物とした時から争いが始まり、身分制度が始まり、環境破壊が始まりました。


後ろ戸は、廃虚地帯など人々に見向きもされなくなった寂しい場所に出現するという設定になっています。

新海監督はインタビューでこのように語っています。
「寂しい場所、忘れ去られた場所を悼む話にしたかった」
「かつて賑やかだったのに廃れていく場所を見ていく中で、何かを始める時には地鎮祭のような儀式をやるのに、終わる時は何もやらないことに対しての想いがあった」

縄文時代の人々は土地を大切にし、その土地の神様を産土神として祀りました。私たちも大地に対する感謝の気持ちを忘れないようにしたいものです。
都市部に住んでいると地面がコンクリートに覆われていて土が見えないので、どうしてもこの感覚が薄れてしまいますね。


そして、この作品で興味深いのは逆転の視点があることです。

神話の天岩戸物語で扉から出てきたのは天照大御神だったのに対して、この作品の中では災害をもたらす荒神・ミミズが出てきます。
さらに、天岩戸物語でのアメノウズメは扉を開く働きがあったのに対して、この作品では扉を閉じる働きとして描かれているのです。

また、天岩戸物語において荒ぶる神として描かれてているのが素戔嗚(スサノオ)であり、素戔嗚の子が宗像三女神です。
この作品の中では、宗像一族を象徴していると思われる宗像草太が閉じ師として登場しています。
現実の歴史上でも、宗像一族は海から来る者から日本の国土を守る役割を担ってきたと言われています。

すずめの戸締り

新海監督はこのようにも語っています。
「この物語は災いが日常に張り付いた終末後の世界である」

人間が大切なものを失う終末はとっくに訪れていて、今は危険な瓦礫だらけになった終末後の世界。瓦礫の後始末をしなければいけない時期にあるのかもしれません。

新海監督が言う「終末後」が今だとすれば、「終末」が訪れたのはいつだったのでしょうか?
それは、二つの異なる視点があると思います。

作品のあらすじから言えば、終末が訪れたのは主人公のすずめが震災孤児となった2011年3月11日です。
その当時の彼女が付けていた絵日記帳が物語の中に登場するのですが、3月11日以降のページがクレヨンで黒く塗りつぶされており、それが終末後の世界の始まりでした。

もうひとつの視点として、この作品が日本神話と関連づけられていることから、天岩戸物語の舞台となった時代、すなわち弥生時代に終末があったことが示唆されていると思います。

1万年以上も続いていた縄文時代という平和な時は海から渡来人がやってきたことによって終了し、ここから日本は戦乱の時代に突入しました。
特定の人間が神格化されるようになり八百万の神に対する人々の信仰心が薄れていったこの時期以降、現代までが終末後の世界だということが出来ます。

古事記・日本書紀を編纂したのは渡来系の人々です。
これら神話の中では岩戸が開いて世界に光が戻ったとされていますが、実際には人の心が引き起こす災いは無くならず、縄文時代のような世の中に戻ることは今日までありませんでした。
むしろ、殺し合いをして頂点に昇りつめた戦国武将たちを歴史上の英雄として讃えるといったような人々が災いと共存する世の中になりました。

日本の社会が比較的安定したのは江戸時代でしたが、黒船来航によって明治維新となり、再び大きな内乱が起きた後に外国との戦争が続きました。
このような社会背景の中で、多くの人々が自分の人生を満喫することが出来ずに心が歪んでいく時代が続きました。

「岩戸開き」という言葉に対する一般的な認識は、新しい時代を開いていくことです。
私たちは今、弥生と明治維新をいったんリセットして、終末後の世界の戸締まりをし、今度は本物の岩戸を開いていくタイミングに生きているのです。
本物の岩戸は天界にあるのではなく、私たちが生きる現実世界にあり、それは古き良き日本の復活ということになるのかもしれません。


ダイジン
※「うちの子になる?」と声を掛けられるダイジン(第3の主人公)

要石は土地の怒りを鎮める霊力が宿る石ですが、すずめによって解放されてダイジンという名前の自由に動き回ることができる猫の姿になりました。
長い間、人に見放された寂しい廃虚地帯で要石になっていたせいか、小さくてやせ細った姿として描かれています。
最後には、すずめと草太の生に対する思いを受け取って、自分の身を犠牲にして要石に戻るという不遇のキャラです。

猫の姿になってすずめと最初に出会った時に、すずめから「うちの子になる?」と言われて、人の温かさに触れダイジンが喜ぶシーンがあります。
それは、すずめ自身が幼い時に震災孤児となり、叔母の家に引き取られた話と重なってきます。
さらに、要石と人柱のイメージが重なってくるこのストーリーの特徴から考察すると、ダイジンの正体は、昔、自然災害を鎮めるために人柱にされた人間の子供だったのではないかと考えられる節もあります。
そう考えると、すずめとダイジンの双方に対してジンとくるものがあります。


この作品のもうひとつのテーマは、「生きる」ということです。
主人公のすずめと草太との関係には、新海監督の他の作品と比べると恋愛感が薄く、すずめが草太と同じ能力を持つ閉じ師になるという設定になっています。

すずめは、生きることに対する執着の薄い少女でした。
それが、ダイジンを追いかけて宮崎の家から出て未知の地へ旅立ち、ミミズと戦いながら過去に大震災が起きた自分の故郷を目指すという刺激的な冒険の相棒として草太が存在していたことで、「(草太と一緒に)私も生きたい」と発言するに至ります。
その言葉を聞いたダイジンが、要石になってしまった草太を助けるために自分が要石に戻ったのです。
人は共に生きる仲間がいることで自分が生きることの意味を見出せるのだということが、この作品が最後に伝えたかったメッセージだったのではないかと思います。

(やしろたかひろ) 


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